NIWA AKIHITO ATELIER

03.丹羽アトリエの家づくり

幼い頃の記憶が自分の家づくりの原点

父親が家具職人でした。幼い頃から木工場が遊び場で、いつも木の香りに囲まれた毎日でした。
今の仕事を選んだのは、自然の流れなのかもしれませんね。

幼い頃の自分の家の思い出といえば、暗い廊下の先の自分の部屋が寒くて寂しくて…。
それより家族の近くにいたくて、みんなのいる居間でいつも宿題をしていたことを思い出します。
そんな自分の体験が、今の家づくりの考え方の根底にあるような気がします。
いつも家族全員が「つながり」と「気配」を感じられる家にしたい。子供部屋にはベットや棚などの必要なものだけを置く、コンパクトで楽しげな空間を提案しています。場合によっては1階の居間を見下ろせるようなロフト感覚の空間にすることもあります。私の記憶に有る暗くて長い廊下を無くし、どの部屋もつながっているような家も多数造りました。実はこの方が居住スペースが広くなるため、結果、コンパクトな家にまとめることができて、ローコストにも繋がるんです。

日本人の「平屋に住みたい」という願いは昔も今も変わりませんが、「平屋はコストがかかるから、予算内では小さな家しかできない」という先入観から諦める方がいます。しかし、平屋の桁から片流れ屋根を延長してロフト的な2階を造るなどの工夫で、平屋に近い住み心地の家を造ることは可能なんです。また家を造る際、昔ながらの間取りに縛られている方もいます。かつて日本の家は「冠婚葬祭のための場」でもあったので、客間がもっともいい場所に作られ、広い和室も必要でした。結局50坪あっても、実際毎日使っているのはせいぜい半分くらい。そんな家がまだまだあります。これではやはりもったいない。上手くプランニングすれば、それほど広い面積をとらなくても十分な住まいはできます。コンパクトにさえまとめられれば、予算内でも平屋感覚の家を実現することができます。「家は40坪以上の広さがないとダメ」。たとえば、そんな先入観をなくすことが、理想の家づくりの第一歩かもしれませんね。

本当に安全で快適な住まいは木組みの伝統構法にある

東京から地元の愛知県に戻ってきた時、この地域はまだまだ土壁を使った木の家が多く造られていることを知りました。ちょうど時を同じくして起こったのが、あの阪神淡路大震災です。
この時、木組みの伝統構法の家がいかに頑強かを知り、伝統構法に惹かれて、この地で木組みの家づくりをしていこうと心を決めたのです。

木の家は、頑丈であることに加え、時間と共にそこに住む家族の色合いに染まり、味わい深くなっていくものです。手で触れる所はすり減り、キズにも不思議な愛着が湧いてくる。そんな日常の時間が思い出として木に刻み込まれていきます。

日本の木を使う=コストがかかる、と思っている方も多いと思います。確かに節のない木ですべて造ろうとすればコストはかかります。しかし、節にこだわらなければコストは抑えられますし、そもそも木には節があることが自然ですから、それを活かすことも木の家に住むということなのです。木は自然のものですから工業製品のようには均一では有りません。その多少のばらつきをいかに活かすか、という点では腕のいい大工が必要です。

よく、 “そんな大工はいないのでは?” と聞かれますが、まだまだたくさんいます。そもそも大工は、自分の手で家を造る仕事がしたいがためにこの道を選んでいるのです。自らの手で木を削り、建てたい。それはベテランだけでなく若手の大工も同じ思いです。しかし、プレカットの家づくりに押され、職人としての技を活かす仕事が減っていることは事実です。彼らが腕を磨くチャンスはおろか、後継者を育てる余裕もなくなっていることは深刻な問題です。今ならまだ間に合います。私たちの家づくりが、次の世代への技術の継承に貢献できるとしたらとても本望です。

日本の家には木と土壁が最適なのです。守るべきものと進化させるものとのバランスを大切にしています。

ランドセル+勉強机+子ども部屋という固定概念を取り払う!

小さなお子さんをお持ちのご家族と家づくりに取り組み始めると、決まって「子ども部屋」をどうするか、という話題になります。小学生になる前にランドセルと勉強机を買ってもらい、勉強は子ども部屋で・・・。皆さん一様に疑いも無くそう考えられていることを知って、ちょっと驚きでした。私自身、子供の頃は自分の部屋は寂しくて落ち着かなかったので、いつもリビングで勉強していましたから。

そんな経験から、自分の家を造る時は、孤立した子ども部屋を作ろうという発想はいっさいありませんでした。初めは細かく仕切らず広く取っておく。いずれ子供の人数に合わせて必要なスペースを囲う程度で確保していこうと・・・。

おそらく家を建てようとしている子育て中の方も、自分が幼い頃はやはり家族の気配を感じる所にいる方が安心できて居心地がよかったはずです。それなのに、「子ども部屋はこうあるべき」という固定観念になぜか縛られてしまう。

まず、もう一度子供の頃を振り返ってみてください。そして一緒に考えてみましょう。何なら中学生でも高校生でもリビングで勉強したっていい。そんな自由な発想からイメージを膨らませていっても良いのではないでしょうか。

井上さんの家づくりに関しても、やはり子どもはいつか巣立っていく。“家族がつながる時期は短いからこそ、いつも家族が一緒にいる空間づくりを” というのが大前提でした。家族がつながっている空間が、家族の深い絆を築きあげていくと思うからです。リビングの横の書斎コーナーでみのりちゃんが宿題をやり、その横でご主人が本を読む。そんな2人を奥さまがキッチンから見守る。こうした光景が当たり前となる空間を作りたいというリクエストで出来上がったのが、井上家の書斎コーナーです。静かでなければ子どもは集中できないというのは思い込みだと思うんですよね。家族がそばにいるという安心感の方が、子どもにとっては集中できる空間ではないかと、自分自身の子育ての経験からも感じていることなんです。

今、子供に戻れるとしたらどんな部屋が欲しいですか?まず、そこから一緒に考えます。それが”子育てする家づくり”のポイントですから。

家族のつながり、仲間とのつながりをカタチにした家

お施主様インタビュー

井上さん:丹羽さんの家との出会いは、妻の実家に挨拶に行った時です。妻の実家も丹羽さんに建てていただいており、玄関に入った瞬間、驚いたのを覚えています。山が好きなのですが、家の中の空気が山の空気と同じだったのです。あの時以来、天然の木と土壁の家への興味が強くなり、こんな家がほしいと思うようになったのです。

丹羽:土壁は呼吸していますから、家の中に臭いがこもりません。常に空気がきれいなんですよ。

井上さん:そうなんですね。いざお願いする時には、「子育てをしていく家」というのを基本に、床面積も少なくコストもできるだけ抑えてというのが希望でした。

丹羽:はい。廊下をつくらず、2階をロフト感覚にして平屋での生活をベースに考えました。家のどこにいてもみのりちゃんと寛太くんの気配が感じられるようにしたかったからです。その上で、井上さんが希望されていたぬれ縁や、家族で使える書斎コーナーなどを組込んでいきました。

井上さん:そうなんです。ぬれ縁に七輪を置いてサンマを焼く七輪パーティが夢で。趣味の和太鼓仲間と実行しています。実は冬でも暖かく、子どもたちが寝転がって日向ぼっこをしているんですよ。

丹羽:縁側感覚ですね(笑)。お友達が多い井上さんのお人柄を知って、リビングから玄関スペースが見えるようにしたのもポイントです。訪れたゲストに家の中から「いらっしゃい!」と声をかけられる。みのりちゃんのお友達の「あそぼ!」という声に、リビングから「いいよ!」と返事ができる。それが井上さん一家のイメージだったからです。広い玄関前スペースもそんなつながりを生み出す場として考えました。

井上:なるほど。「家族のつながり」と「仲間とのつながり」。私が大切にしていることをカタチにしてもらった気がします。

丹羽:そう言ってもらえることが、つくり手としては一番嬉しいですね。